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『タイムスリップオタガール』佐々木陽子 人生やり直しても、立派なオタクになる!

たまごまご

中学生に戻ってしまった30歳オタク女子、どうしても買った同人誌が読みたい……!

城之内はとこは、30歳のオタク女子。
同人誌即売会で、あこがれの作家の新刊をしこたま買い、帰って読むのを楽しみにしていた。

はとこ30歳。筋金の入りのオタクでござる。幸せそうでござる

ところが帰路、駅で線路に転落。電車にひかれて死んだ……と思った瞬間。
周りを見渡すと、1日前に観たはずの、大好きな2.5次元ミュージカルの会場に戻っている。
まさかのタイムスリップ!?

「あ 頭が おかしくなった…でござるか…」
「誰になんと言ってどう説明すれば…」

彼女は、考えることをやめた。
「お得やん!」

「COMICポラリス」で佐々木陽子氏が連載している、時間逆流コメディ『タイムスリップオタガール』単行本第1巻が明日、1月14日に発売される。

はとこの脳内スーパーひとり芝居

基本この作品は、はとこがものすごい勢いでひとり会話する形式で描かれる。

例えば死にかけた瞬間も、彼女のマシンガン脳内トークが炸裂。

ほとんどのページがこの勢い。みっちり描かれたセリフは、心地よいドライブ感がある

何度もタイムスリップを繰り返していたある日。
トラックに高く跳ね飛ばされて、目を開いたら1996年
自分が中学の時に逆戻り。

時をかけるオタク。若返ったことより、何より、買った同人誌をまだ読めていないのが悔しい

ヤバい事態だが、彼女は脳内トークで、もりもりとポジティブに物事を受け入れていく。

なんで遡ったのか全くわからないし、覚えていない中学生活を送るのは困難すぎる。
けれども悲嘆しない。自分でボケツッコミ全てこなし、まあなんとかなる、と完結させるから、悩みが重くならない。

もっとも軽くはないけれど、彼女にはもっと大きな目的……「30歳の時に買った同人誌を読む」という野望があるから。
萌えの力が、苦しみを凌駕していく。

はとこの妄想は、どんな現実だって飛び越えるくらいのエネルギーがあって、とても気持ちがいい

1996年のオタク中学生

戻ったのが1996年のというのは絶妙だ。
アニメだと「名探偵コナン」がはじまったばかり、「るろうに剣心」や「スレイヤーズ」が盛り上がっていた時期だ。
同人誌はあまり流通がなく、奥付の住所に郵便小為替を送ってやり取りしていた。
そして、ネットは普及しておらず、ケータイなんて中学生が持てるものじゃなかった。

当時のオタク生活のテンポは、情報があふれる今と全く別物だ。
はとこは手に入らないものが多すぎることに悶絶しながらも、不自由ゆえの渇望感を、改めて楽しんでいる。

大好きだったアニメを改めてリアルタイムで見る。同人誌紹介雑誌を読んでニコニコ。
かつての自分が漫画を描きたいという夢を熱く抱いていたのを思い出し、萌え感情を満たすべく、執筆活動をはじめる。

遡ってもオタクでありたい

はとこは、人生やり直しモードでも「オタクの幸せを手に入れたい」とだけ考えているのが、非常に清々しい。
モテたいとか、お金持ちになりたいとか、これっぽっちも考えない。
やり直したがゆえにわいた欲望は、効率よく同人誌やオタクグッズを手に入れ、30歳までにコレクションをプラスアルファするというもの。

失ったオタクアイテムのお宝のことを考えると、涙が出ちゃう。少しずつ、大好きなものを、集めてきたのに

オタク文化が好きであると同時に、オタクである自分がとても好きなのだ。
漫画を心底愛しており、こんな大惨事なのに漫画のことばかり考えている。
そこに金銭的損得の感情は一切ない。

あえていえば、中学生の財力では同人誌が買えないから、バイトをしたい、くらい。
30歳の画力で漫画を描いて、プロデビューして……そのお金で同人誌を買いたい。

中学のクラスの男子は、タイムスリップ効果で急に明るくなった彼女に、魅力を感じているようだ。
モテの気配がする……けれども彼女の眼中にそんなものはない。

彼女の輝きは、二次元の前でだけ発揮されるもの。
読むと、「オタクっていいな」と感じさせられる。オタク文化がもつ「楽しさ」への賛歌だ。



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©佐々木陽子/COMICポラリス
©フレックスコミックス