書店インタビュー
棚には独自のテーマがある。 往来堂書店 三木さんのおすすめ作品
籠生堅太
文脈棚のパイオニア・往来堂書店
閑静な住宅街に神社仏閣などの歴史的建造物が数多く存在する東京の人気スポットのひとつ、谷中、千駄木、根津――通称・谷根千(やねせん)。
その一画にわずか20坪たらずの売り場にもかかわらず、多くの出版関係者が注目する書店がある。
出版社、著者にかかわらず、作品の内容によって本棚への陳列方法を考える、いわゆる「文脈棚」のパイオニア的な存在として知られる往来堂。
そんな往来堂でコミックを担当する三木さんにお話を伺った。
往来堂書店 三木さんおすすめの作品
『彼女と彼女の猫』 漫画:山口つばさ 原作:新海誠
モノローグを中心にストーリーが進んでいくんですが、シーンひとつひとつの切り取り方と描写がよくて、コマごとにじっくりと眺めたくなるような、贅沢さがあります。
作中の時間の流れがとてもゆるやかで、休日の午前中に読みたいです。
『やおろちの巫女さん』武月睦
怪物達はユキちゃんに挑んでは返り討ちにあうコミカルな存在だけど、実は無表情。
感情の起伏の描写はユキちゃんに集中しているので、目で追ううちに自然とこの世界観に夢中になっていました。
ユキちゃんと怪物達の、長年の敵であり、友でもあり、また親子のようでもある不思議な絆も美しい。
ちょっと泣ける作品です。
『ライアーバード』脇田茜
観客のリアクションを通じて表現したり、会場への圧として描いたり、言葉で語らせたり色んな方法がありますが、コトちゃんにはそのパフォーマンスを見るだけで、すごいと思わせるものがあります。
本当にライブ会場で圧倒的な演奏に触れてゾクゾクするような感覚。お見事。
出会いと発見の場所としての棚
往来堂書店のコミック売り場は、約1,000冊の単行本を収めることができる。他店に比べるとひと回りも二回りも小さい。
それでも足繁く通う人が多いのは、やはり往来堂の棚には新しい作品との出会いが隠されているからだ。
印象的だったのは三木さんが語ってくれた「読者にとっては、作品を知ったその日が刊行日」という考え方だ。
作品を知ったその日が刊行日という考え方もあるんですよ。ですので「出会いや発見を増やす」ということを棚の技術のひとつとして考えています。
新刊、新人漫画家をとりまく状況があまりよくないことは、ご存知の方も多いし、それに対する取り組みを行っている書店さんも多いと思います。
一方で数年以内あるいは数十年前の既刊作品を、どのようにして再度世に問うのか、ということも書店が考えなくちゃいけないことのひとつだと思います。
良い作品が一過性に陥らず繰り返し売れる状況になることで、ひとつのキャリアとしての漫画家という環境がもう少し明るくなるのではないでしょうか。
「新人の作品をいち早く紹介する」っていうyomina-hareのコンセプトとは逆のように見えますが、既刊に目を向けることも明日の新人漫画家さんが漫画を描き続けられる環境へ繋がると思うんです。
書店情報
書店名 | 往来堂書店 |
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営業時間 | 月~土 10:00〜23:00 日・祝 11:00〜21:00 |
定休日 | なし ※年末年始を除く |
電話番号 | 03-5685-0807 |
URL | http://www.ohraido.com |
所在地 |
〒113-0022 東京都文京区千駄木2-47-11 |
取材・撮影:yomina-hare編集部
取材協力:往来堂書店
今回の書店員さん
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三木雄太
往来堂書店 コミック担当