ルーツは、手塚治虫と『落第忍者乱太郎』
レトロな作風もあって、川路先生の年齢が予想できなかったのですが、お若くてびっくりしました。今はおいくつなんですか。
川路
22歳です。
漫画家を志したのはいつごろから。
川路
幼稚園のころから、漫画家になりたいって思ってました。
じゃあずっと漫画を描き続けてこられてたんでしょうか。
川路
イラストは描き続けていたんですけど、漫画にすることができなくって。20歳になる直前くらいには、「私、もうすぐ20歳になるのに、なんで漫画家になってないんだろう……」って毎日毎日思っていました。自分が全然成長していないような気がして。すごいドキドキしちゃって、怖くなって、たまらなかったですね。
20歳のころといっても、2年ほど前の、最近の出来事ですよね。漫画が描けない状態から、どうやって連載、そして初単行本まで。
川路
そのころに漫画家のつのがいさんと知り合って。
『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』の。
川路
そうですそうです。つのがいさんと会ったら、同じ人間がふたりいるみたいに意気投合して。
つのがい先生、日下氏との出会いが、川路先生の人生を大きく変えることになる
日下さんは、つのがい先生もご担当なさってるんですよね。
日下
そうですね。もともと川路さんと担当することになったのも、つのがいさんからご紹介いただいたのがきっかけだったので。
川路
じつは日下さんに紹介してもらったときには、原稿はもちろん、ネームもない状態で。そこで「◯日後までにネーム持ってきてください」と締め切りを設定してもらったので、「これを逃したら、もう漫画家になるチャンスを掴めなっちゃう!」っと、やりきることができたんです。
そうして必死の思いで出来上がったネームが、日下さんのもとに届いたわけですが、その段階から今の作風は完成されていたんですか。
日下
そうですね、オリジナリティしかなかったです。
取材中、「作品が成り立ってるのは、日下さんのおかげ」と繰り返す川路先生
あの作風が、どのようにできあがったのか気になります。どんな漫画を読まれてきたんですか。
川路
それは完全に手塚治虫先生の影響ですね。本格的に読み始めたのは19のときで。その影響が一番強くて……。
手塚先生を読み始めたのは、つのがい先生の影響もあるんですか。
川路いや、手塚先生を読み始めたのは、つのがいさんと出会う前ですね。あと影響を受けているのは、尼子騒兵衛先生の『落第忍者乱太郎』です。『ほとんど路上生活』も、すごく影響受けてます。
具体的にはどういったところに?
川路
『落第忍者乱太郎』って忍たま(編集部註・作品の舞台である忍術学園の生徒)だけでも物凄い人数がいるんですが、嫌な子はひとりもいないんですよ! でもひとりひとりにすごく個性があって。嫌な性格を作らなくても、こんなに魅力的なキャラを作れるんだ、私もそういう漫画を描きたいなと思っていて。
『ほとんど路上生活』も、嫌な出来事は起こるけど、嫌な人はあまり出てこないですよね。
川路
それ、一番気をつけてます! というのも、やっぱりギャグ漫画なので、テンポが悪くなるのは怖いですね。タンタンタンと進めたい。
日下
「生生しくならないように」とは、川路さんに都度お伝えしていました。
宴会場で家族を取り囲む人たちはみな、ひとクセあるが優しい人たちばかり
川路
嫌な人が出てくると、ストーリーの邪魔になるので。
実在の人物といえば、変なおじさんがたくさん出てくるじゃないですか。漫画だから笑えましたけど、あの人たちに実際に遭遇したら、かなり怖くないですか。
右上から時計回りに、寝ているトモちゃんに小便をかける聖水おじさん、全裸で自分のイチモツを握りしめる鰯おじさん、読んで字のまま無理心中おじさん、そして死んだ娘を探し続ける大島さん
川路
もちろん怖いですよ(笑)。でも街にいっぱい潜んでたんですよね。「泣き声おばさん」みたいなあだ名をつけて、街のシンボルじゃないけど「まぁいるな」程度に受け止めて。でもそういう人、嫌いじゃないんですよね、本当のこと言うと。
羽交い締めおじさんこと、母・のばらさんに想いをよせていたシンゴくんは、川路先生お気に入りのキャラ
連載をしていくなかで、だんだん漫画家になる
いよいよ単行本発売ですが、はじめての単行本作り、楽しいことも大変なこともあったと思いますが。
川路
かなり新鮮でした。デザイナーさんとの打ち合わせも初めてで、すごい緊張しました。
悲壮感を全然感じない、作品のことをすごく表してるカバーだと感じました。
日下
デザイナーさんも川路さんの作品を理解いただいている方にお願いでき、作品のテイストもうまく汲み取っていただけました。今回は、カバーイラストのラフもデザイナーさんに切っていただいたんです。
ぐるっと一周巻きのイラストとなると大変ですもんね。
日下
帯などで隠れる部分を考えながらイラストを描かないといけないので。はじめての単行本で、その作業をしていただくのは、川路さんに負担をかけてしまうというのもありました。
他者の引いたラフの上にイラストを描くって、初めての経験だったのでは。
川路
想像以上に素敵なラフをいただいて、自分がそれに応えられるかが心配でしたが(笑)、本当にやりやすくしていただけました。
もともとはイラストの方が描くのはお好きだったんですか。
川路
漫画が描けなかったころは、イラストにばかり力を入れているだけの生活だったので。イラスト1枚に1週間かけてたみたいな。気が狂うくらい細かいことばかり気にしていました。
具体的には、どんなところに。
川路
例えば、こういうフキダシのかすれたような処理です。今はデジタルでやってるんですけど、そのころはホワイトで、フキダシひとつに5時間くらいかけていて。
かすれたような独特なフキダシ。以前はひとつ5時間ほどかけていたそう
5時間! それがいつから漫画のほうに比重が傾いていったんですか。
川路
毎月毎月描くたびに「うわ……今月の作画も最悪だよ」って思ってたんですが、だんだんと絵も大事だけど、ストーリーがいい漫画を描きたいなって思い始めていて。のばらさんの過去回を描いたときには、だいぶ吹っ切れました。
日下
もちろん最初から面白い作品ではあるんですけれど、「のばらの半生」 で一気に想像を越えた作品になりました。明らかに節目になった回ですね。
川路
そうやってだんだん、絵より漫画のほうがいいなって思考になりました。
日下
とはいえ単行本は、ほぼ全ページ修正してますので。
全ページ!
川路
あー、それを言われると、まだ作画にも執着があるのかもしれません。
じゃあ単行本作業は、大変な重労働だったんですね。
川路
でも私から日下さんにお願いして、やらせていただいたことなので。やっぱり連載初期から、絵がずいぶん変わってしまったので、そこに合わせて修正をしたかったんです。
そうやっていよいよ単行本が発売されるわけですね。
川路
単行本でるんですねー、やばい……。
漫画が描けないような状態から、初連載、初単行本と短く濃い3年間でしたね。川路さんが、どんどん漫画家になっていく過程をお聞きできたような気がします。
川路
一生、漫画家でいたいです。拙い内容ですが、描きたいことも山ほどあるので。なんとかこの職業にしがみついていたいです!
『ほとんど路上生活』のつづき、そして新作も楽しみに待っています。本日はどうもありがとうございました!
試し読みはコチラ!
写真撮影:カレー・ラモーン
©川路智代/エブリスタ/小学館クリエイティブ