新人賞レビュー
彼女は怪獣よりも他人の目が怖いヒーロー 『SHY』実樹ぶきみ
たまごまご
手違いでヒーローになった女子中学生、ほんとは人前に立ちたくなんてないのに!
町で怪獣を倒すスーパーヒーローは、素顔を見せようとしない。だから通称「SHY(シャイ)」。
正体は、恥ずかしがり屋の中学二年生・紅葉山テル。人の視線が死ぬほど苦手な、ホラー映画好きの内気な少女。
本来はヒーローになる予定はなかったのに、ちょっとした手違いで、ヒーロー生活を送らねばいけなくなった。
秋田書店
「週刊少年チャンピオン」でNEXT CHAMPION新人まんが賞で新人大賞を受賞した実樹ぶきみ氏によるアクションヒーロー読み切り、『SHY』が1月12日発売の7号に掲載されている。
「私はどんどん自分のことが嫌いになってく」
テルが受け取った力は、怪獣を難なく吹っ飛ばせるほど強力なもの。
しかし、正義の心を持つわけじゃなく、恥ずかしがり屋な彼女にとって、それは「目立つ」だけの邪魔なものだ。
ヒーローは、ハッピーエンドと平和と幸せの象徴。弱い人間誰もが頼りにし、憧れる。
あまりにも荷が重い。
いくら頑張っても、人を救えないことだって当然ある。
怪獣の襲来によって兄を失った少女は、シャイに言い放つ。
「1分でもいいから早く… 助けに来てくれなかったの…?」
彼女は、その視線が恐ろしくて、逃げた。
テルが恐れているのは、怪獣よりも「人間の目」の方だ。
いくら頑張っても、別に正義のために戦っていないから、みんなが応援する度に、後ろめたさで死にそうになる。
逃げたら誰かが死ぬ。「役立たずのせいで大勢死んだ」と視線を向けられる。
「怪獣ごと私も消えされたらいいのにな 怪獣に殺されちゃえば 許してくれるかな」
「もうヒーローなんかやらなくていいよって 誰か言ってよ」
「ヒーローになんてされたあの日から 私はどんどん自分のことが嫌いになってく……」
一歩踏み出した、等身大の少女
全編に渡ってモノローグを多めに取り入れ、徹底してテルの一人称目線で描いている作品だ。
ヒーローの怪獣退治、というド派手な出来事が描かれているものの、作中のテーマになっているのは「自分のことが嫌い」という、多くの人間が思春期に抱きがちな感情だ。
照れ屋のスーパーヒーローはいつも自信がなく、うじうじしている。
決して弱虫なのではない。頑張っている方だ。胸をはっていい。
ただ、人目に晒され、責任の重圧に耐えられなくなる彼女の姿は、とてもじゃないが責められない。
彼女は怪獣に立ち向かう際、いつも「人にどう思われるか」ばかり考えていた。
だから危険な目にあっても「頑張って死んだんだからさ きっと皆許してくれるって」。
自分がどうしたいか以上に、周囲の反応が先に頭に浮かんでしまう。
この思考ループから脱出するのは、生半可なことじゃない。
作者は、簡単に彼女を脱出させていない。とことん悩んで苦しんで痛い目にあって。限界になるまで彼女を追い詰める。
だからこそ最後の最後で、彼女が一歩踏み出した瞬間、グッとくる。
自己嫌悪が強いテルの心を、ひとつひとつ丁寧にとらえているので、アクションシーンはその分豪快。
メリハリがはっきりしており、読んでいてとても気持ちがいい。
特にハルの成長にあわせた涙の表現は、是非見てほしい。
ちなみに、電子版「週刊少年チャンピオン」07号では全連載作品の第1話が、08号では第2話が収録されているので、お得です。